「運動はしたいと思っているが、実際に運動はなかなかできない」
このような対象者は現場でよく見られます。
どのように意図した行動を引き起こし、継続していただくかは、セラピストにとっても大きな課題であると思います。
このような、意図と行動の乖離を説明するモデルに「HAPA理論」というものがあります。
HAPAとは「Health Action Process Approach」の略になります。
HAPA理論では、まず大きく2つのフェーズが存在します。
(1)行動意図につながる動機付けプロセス
上の図の黄色で囲まれているところになります。
HAPA理論では、人が「行動をしよう」という意図を持つ前に3つの要素が必要と考えられています。
それは①自己効力感②結果への期待③リスク認知の3つです。
①の自己効力感とは「自分が望む行動を実行できる」という自信のことになります。
(例: 自宅でもテレビの誘惑に負けず、自主トレができる・・など)
②の結果への期待とは、実施したことにより得られるメリットを感じられるということになります。
(例: 週に5回運動すれば、心血管系のリスクを減らせる・・など)
③のリスク認知は、疾患へのリスクや実施しないことによるデメリットを認知できているかということになります。
(例: 私は脳血管疾患のリスクがある、この薬を継続内服しないと再発リスクがある・・・など)
これらの要素が合わさり、行動を引き起こす意図に繋がり、次のフェーズに行きます。
(2)実際の健康行動につながる意思プロセス
二つ目のフェーズは意思プロセスになります。
行動意図から、実際の行動に移るまでには行動計画が必要となります。行動計画では、「いつ」「どこで」「どのような」という詳細な設定があると望ましいと言われています。
例えば、「自宅でブリッジ運動を毎日10回やりましょう」という計画ではなく、
「夜の〇時くらいに」「リビングで」「指導したポイントを意識してブリッジ運動を」
毎日10回やりましょう。といった設定を細かくして計画に落とし込みます。
行動計画とあわせて、行動を妨げる妨害要因をあらかじめ想定し、その対処計画もあらかじめ作成することが必要と考えられています。
そして、いざ行動を開始した後は、それでゴールではなく、継続させていくことが求められます。
上の図にも「再開する自信」記載していますが、行動を継続するためには例え途中で行動が中断されても、また再開できる自信が必要と考えられています。
HAPA理論は、対象者がどのフェーズにいるかを把握するために有用と考えます。
例えば、行動の意図自体が生じていない(上記「未実施」のフェーズ)方に対しては、自己効力感を高めるアプローチや、疾患への理解を促すコミュニケーション、結果によって得られるメリットを説明するなどの、段階が求められます。
行動意図を持っている段階の人に対して(上記「開始」のフェーズ)は、具体的な行動計画、行動を弊害しそうな事に対しての対処方法の計画を一緒に決める必要があるかと考えられます。
行動を開始している段階の人に対して(上記「継続」のフェーズ)は、行動が継続できるような社会的サポート、計画の見直し、精神状態のコントロールなどのサポートが必要になってきます。
我々が対象者に自主トレを提示した際、「あの人全然自主トレやってくれない・・」と嘆くだけでなく、なぜ意図した行動が生じないのかを分析するのにも役立つ考え方かと思います。
このような視点で見てみると、色々な原因が見つかりそうですよね。
参考にしてみてください
【参考】
1.Schwarzer, Ralf. Modeling health behavior change: How to predict and modify
the adoption and maintenance of health behaviors.Applied psychology.2008
57.1,1-29.
2.Schwarzer, Ralf, Sonia Lippke, and Aleksandra Luszczynska. Mechanisms of
health behavior change in persons with chronic illness or disability: the Health A
ction Process Approach (HAPA).Rehabilitation psychology.2011. 56.3 : 161.
Comments