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「社会的な健康」とはなにか


先日開催された日本作業療法学会の中で、「健康の社会的決定要因(SDH)」についての基調講演がありました。



予防やヘルスケアという言葉が浸透し、近年は「健康」について考える機会が増えたように感じますが、今回は「社会的な健康」について、簡単に書いていきたいと思います。



まず健康の定義を確認していきます。


WHOでは、健康を以下のように定義しています。


「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」

                            (日本WHO協会HPより)



これは、有名なので知っている人も多いかと思います。肉体的、精神的に満たされた状態というのはイメージがつきやすいですよね。

では、この一文の中の「社会的にも満たされた状態」とはどのような状態を指すのでしょうか。


リハビリでは、対象者の全体像を把握する時にICF分類を使います。ICFの中の「環境因子」が健康に関与する社会的側面と捉えるとわかりやすいかと思います。



WHOによって作成されたオタワ憲章では、健康の前提条件として以下の8つが取り上げられています。



これを見ると、日本では比較的条件が満たされている人が多いと思うかもしれません。日本の医療保険制度や介護保険制度は、持続可能な資源であり、公正や公平性を保つ仕組みとして、改めて良くできている制度だと感じることができるかと思います。


また、収入(経済面)も健康に影響を大きく与えていることがわかります。ICFで環境要因を分析する際、住まいの環境などを中心に考えやすいですが、経済状況なども可能な範囲で知っておくことも重要といえます。


例えば、外来リハビリ場面において、継続した介入が必要と思われる対象者に目標の共有を行い、正しい介入を実施したとしても、突然来院しなくなった、というケースがいたとします。

この場合、コンプライアンスが悪い症例だった、こちらの介入が本人にとって満足いくものではなかった、説明不足だった、など色々と考えられるわけですが、継続して通院する費用を捻出するのが難しい経済状況(社会背景)であった。ということも考えられます。


経済面についてはなかなか聞きにくいですので、仕事内容などの情報収集を早期から行う事はとても重要といえるかと思います。



収入なども個人の努力といえばそれまでですが、社会的な要素が大きく影響しており、個人ではどうしようもない(解決しがたい)部分であります。


このような個人に起因せず、健康に影響を与える社会的要因を「健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)」と呼びます。




下の図は、何がどの程度健康に影響を与えるかの割合を示しています。




この中の遺伝的要因(30%)を除く70%の部分(社会的状況、環境、ヘルスケア、生活習慣)が健康の社会的決定要因(SDH)と考えられています。


生活習慣は個人の因子のようにも思いますが、環境や社会的状況の影響も多く受けることから、SDHに含めて考えられることが多いようです。



このように考えていくと、「対象者の健康」について考える際、よりマクロな視点で情報収集を行い、全体像を把握していく必要がありそうです。



新型コロナウイルスは、仕事や学業などの社会的状況に影響を与え、環境の制限が生じ、医療体制に変化を与え、人々の行動習慣をも変えてしまいました。


そのため、新型コロナウイルスは感染力が低下してもなお、多くの人のSDHに影響を与え、健康に影響を与えています。



前述した通り、SDHは個人の力でだけではどうにもならない要因であり、社会全体でこの問題を変えていく必要があります。



そのため、この概念を臨床に応用することは難しいですが、マクロな視点で環境因子を分析し、社会資源を知っておくことで、より健康に導けるかもしれないといった視点は持っていたいところです。





参考文献

・Schroeder SA. Shattuck Lecture. We can do better--improving the health of the American people. N Engl J Med. 2007 Sep 20;357(12):1221-8.


・武田.格差時代の医療と社会的処方:日本看護協会出版会.2021












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