サロン会員の方と半側空間無視の症例に対しての介入について考える機会がありまして、その中でアイパッチについて提案しましたので、今回は「半側空間無視に対してのアイパッチ訓練」について書いていきたいと思います。
まず、半側空間無視に対してのリハビリに関して、最新の脳卒中ガイドライン2021を見てみたいと思います。
ガイドラインでは、以下のように書かれています。
・半側空間無視に対して、rTMS、tDCS、視覚探索訓練、 プリズム眼鏡を用いた訓練を行うことは妥当である (推奨度B エビデンスレベル中)
・鏡像を用いた訓練、冷水・振動・電気刺激を用いた訓 練、アイパッチを用いた訓練を行う事を考慮しても良い (推奨度C エビデンスレベル低)
半側空間無視のアプローチには、トップダウンアプローチとボトムアップアプローチに分けられると考えられています。
●ボトムアップアプローチ:障害に向けた介入で、気づきや行動の変化を必要としない。
例)プリズム、アイパッチの装着
●トップダウンアプローチ:障害や潜在的な代償戦略への気づきを促す介入
例)運動イメージ、視覚探索訓練など
Bowen Aらの2013年のコクランレビューを見てみると、これらのアプローチにより、半側空間無視の症状に対する即時的な変化は得られるが、持続的効果やADLへの影響は確認されていないという結論になっています。
つまり、BITなど半側空間無視の評価バッテリーとしての得点向上は見られるが、FIMなどの変化はあまり見られないということになります。
半側空間無視に対するアプローチを考える際、まず前提としてこのような背景があることを把握しておくことが必要です。
長期的な効果を出すための確実なアプローチ方法はまだ確立されていないということを踏まえて、目の前の対象者にどのようなアプローチが良いか選択していくことが重要になります。
では、今回のテーマであるアイパッチ訓練について考えていきます。
アイパッチとはいわゆる眼帯です。半側空間無視の場合、非無視側(左無視の場合は右視野部分)を遮断します。
イメージ図 眼鏡やゴーグルを用意して非無視側を遮断する
これを装着することで、空間無視されたフィールドに対する視空間的注意を改善することが示唆されています。
では、実際にアイパッチを装着しどのような訓練を行えば良いのでしょうか。
アイパッチを装着し特別な訓練を実施するという報告は、おそらくないかと思います(私が探す限り)。
例えば、Tsangら(2009)のRCTでは、左半側空間無視の患者に対して、アイパッチを装着した介入群と、アイパッチを装着しない対象群間で作業療法を4週間提供した比較研究を行っています。
ここでいう作業療法の中身としては、”神経発達アプローチを用いて、ADLのトレーニングを30分、上肢の改善課題を30分”と記載がありますが、詳細は分からないです。
また、Fongら(2007)は体幹の回旋運動とアイパッチの装着を併用して半側空間無視に効果があるかという研究を行っていますが、こちらは明らかな効果はないという結論に至っています。
アイパッチはガイドラインでも推奨度が高いアプローチではありませんが、簡便で安価に作成できるという点においては臨床向きな方法の一つだと考えます。
rTMSやtDCSは出来る施設が限られておりますので。
臨床的にも無視空間への注意を高めるという意味では有用な印象を持っています。
ただ、上記に紹介した先行研究などを見ると亜急性期での実施であったり、対象年齢が70代だったりするので、実際に目の前の対象者にあてはまるかはぜひ吟味していただきたいと思います。
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