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執筆者の写真リハビリスクエア【リハスク】

ダイナミックタッチを意識した道具操作


ダイナミックタッチとは筋感覚を含む運動性触覚のことを指します(Gibson, 1966)


例えば,目を閉じて棒を持ってそれを左右前後に振ってみると,なんとなく棒の長さや形状,棒がどちらに傾いているかといった情報が認識できるのではないかと思います.


簡単に言うと,これがダイナミックタッチです.触覚情報から道具の情報を知覚できることでこれらについて認識できていることになります.


古くからある概念ですが,臨床で箸操作や書字動作などの獲得を目指す際に,このダイナミックタッチを意識した介入を行うと,操作性が高まるケースが多いので,私見も含めて,介入ポイントをお伝えしてみようと思います.


結論から言うと,私が大事だと思うポイントは3つです

①道具の特徴を知る事

②道具を扱う対象物の特徴を知る事

③道具を介した知覚訓練を行う事


以上の3点です.今回はとりあえず箸操作について着目していきます.



①道具の特徴を知る事

箸操作であれば,まず「箸」について特徴を知ることが重要です.

ここでいう特徴とは,課題遂行するために必要となる箸特有の特性の事を指します.


例えば,箸には以下のような機能があります.

・つまむ

・はさむ

・おさえる

・すくう

・運ぶ

・裂く

・のせる

・支える

・くるむ

・切る

・混ぜる

・はがす


これらを把握しておくことはとても大事です.なぜなら上記箸の12機能それぞれに求められる能力が異なるからです.対象者の方がこの中のどの機能に困難さを感じているかを評価することが求められるかと思います.


また,持ちやすさや扱いやすさが箸の種類によって変わってくるため,塗り箸,割り箸,調理用の菜箸など箸の種類の特徴も抑えておくことが必要となります.



②道具を扱う対象物の特徴を知る事

次に対象物の特徴を知ることが必要です.箸操作で言えば,「箸を使って食べるものの特徴」になります.


例えば,ごはんの特徴はなんでしょうか.

・粘着性がある

・量が多い時は「すくう」「のせる」といった機能があれば良いが,量が少なくなってきた 

 時,茶碗に着いた米粒を食べる時などは,「つまむ」「はさむ」といった機能が求められ 

 る


などが挙げられます.


では,焼き魚の特徴はなんでしょうか

・身と皮,骨を切り離す必要がある

・魚の種類によってほぐれやすさが異なる

・「裂く」「はがす」「つまむ」「はさむ」(「切る」)といった機能が求められる.


などが挙げられるかと思います.


ごはんと魚だけでもそれぞれの持つ特徴に違いがあることがわかります.


①と②について把握しておくことで,どのような知覚訓練を行えば良いかがわかってきます.


③道具を介した知覚訓練を行う事

では,①と②を踏まえてダイナミックタッチを意識した介入ポイントについて魚を食べる時を想定して説明していきたいと思います.



まず箸を使って魚の身と皮を「はがす」ためには,当然随意性や筋力,巧緻性などが求められますが,それ以外に「知覚」という要素が必要です.




実際にやってみて頂くとわかりやすいですが,皮をはがすときは片方の箸で身をおさえて(①),もう一方の箸で皮を横に「はがしていく」動き(②と③)が求められます.



この時,箸の先端を介して魚の持つ弾力性や魚の皮と身がはがれる感覚を知覚しているからこそ,この操作は実現可能となっています


仮に箸の先端でこれらを知覚できないと,身を片方の箸でおさえ続けることは難しく,皮を綺麗にはがすこともできません.


片麻痺の方や感覚障害などがある方は,まさにここに問題が生じます.


箸という道具を介したダイナミックタッチが困難で対象物の情報を知覚できなず,粗雑な操作性になってしまうのです.


特に片麻痺や感覚障害がある方は,「箸を使う」という操作性など運動機能面に意識が向きすぎて,感覚情報に目を向けたり,取り込むことに困難さを生じやすい特徴があります.


このような対象者には,ダイナミックタッチを意識した訓練から,知覚しやすい状況に導くことが一つの課題解決対策となると考えます.



例えば,上記の箸を使って魚の身と皮をはがす課題に対して以前行った介入例として濡れた紙を箸で「裂き」「はがす」という課題を行いました.



・濡れたペーパータオルをお皿に貼り付けることで,紙に張力を増やす

・箸先で張力を感じることを意識してもらいながら,実際の操作と同じ「裂く」「はがす」 

 という操作を行ってもらう


この症例は中枢性の軽度感覚障害の方でしたが,何度か実施していくと,全身の過剰な力みが減り,操作性が高まる様子が見られ,実際の箸操作にも汎化が見られました.


あくまで一例であり,こういった介入に関してのエビデンスは当然ありませんが,ダイナミックタッチという概念を基に介入アイデアを持っておくことは,臨床現場では大事だと考えます.


なお,今回は箸操作に焦点を当てましたが,ダイナミックタッチはあらゆる道具操作において通じる概念ですので,道具操作の獲得を目指す対象者のリハビリを行う場合は,今一度,道具や道具を扱う対象物の特性についても分析してみると,良いかと思います


参考にしてみて下さい!


以上です






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