肩関節の介入はどの領域でも多いです。
整形外科病院、クリニックでは特に出てきますよね。
そんな肩関節の介入ですが、、、、
セラピストが患者さんの肩を痛くしてしまっている可能性があります、、、
これをお読みのあなたは、自分の手で患者さんの痛みを強くしてしまっているかもと考えたことがありますか?
少なくとも新人の頃の私は、痛みを良くしようとリハビリしているのに、それが痛みを作り出しているなんて考えもしませんでした。
以前の記事でもお伝えしましたが、組織にはそれぞれ修復するおおよその期間があるため、その期間前にその組織に対してストレスをかけるようなことをすると、痛みを強くすることもあります。
今回は、肩関節に限定してセラピストが痛みを作り出しているかもしれない理由をお伝えします。
関節内圧
関節内圧。 聞いたことはあるけど、あんまり考えたことない。
こんな方も少なくないのではないでしょうか?
目に見えない部分なので、あまり意識しなくても仕方がないかもしれませんが、術後急性期では必ず意識してほしい部分でもあります。
肩関節内圧の役割としては、以下の通り。
・陰圧→関節が引き離される牽引力に抵抗 ・陽圧→陰圧と反対
簡単に言うと、掃除機で吸い上げるように上腕骨頭を臼蓋側へ引き寄せることで、軟部組織に頼らない関節安定性に貢献しているということになります。
反対に陽圧の場合は、骨頭が臼蓋と離れる方向へ移動することになり、軟部組織、主に腱板筋群による求心性の作用が必要となります。
痛みを感じてしまうのは、関節内圧が陽圧になっている場合。
通常なら、腱板筋群が働けば関節内圧による骨頭制御は必要ないので、陽圧へ近づきます。
しかし、術後の腫脹や炎症が強い状態の時期も関節内圧は上昇し、陽圧へ近づきます。 通常の場合と違うのは、腱板筋群が働いているかどうか。
腱板の術後急性期なんかは、関節運動せず安静にしていなければいけないので、腱板筋群の働きは確実に弱いです。
術後急性期の陽圧と腱板筋群が働くことによる陽圧との区別をしっかりとしておきましょう。
何故関節内圧が上がるのか?
何故関節内圧が上昇するのかというと、滑液包と関節包を結ぶ通路の閉塞、肩関節運動の角度によって変化します。
滑液包と関節包を結ぶ通路の閉塞
肩関節周囲の滑液包は主に以下の3つ。
・肩峰下滑液包 ・三角筋下滑液包 ・烏口下滑液包 ・肩甲下滑液包
いずれも烏口肩峰アーチ(烏口突起-烏口肩峰靭帯-肩峰)と腱板との間に存在しています。
肩峰下滑液包は、大結節と肩峰の間。 三角筋下滑液包は、三角筋と上腕骨の間。 烏口下滑液包は、烏口突起と小結節の間。 肩甲下滑液包は、肩甲下筋腱と肩甲骨の間。
そもそも、滑液包の役割としては、組織間の滑りを起こりやすくする潤滑油みたいなもの。
この滑りが悪いと、肩関節運動時に組織感でうまく滑ることができず、炎症の原因や他の部位へ過度なストレスをかけてしまう原因になってしまいます。
術後は必ず炎症が起こっていますので、
滑液包へ負担がかかっていなくても組織間で癒着が起こります。
癒着が起こることで組織間の動きが悪くなり、
肩関節へは負担がかかりやすい状態となっているということ。
そして、肩甲下滑液包はヴァイトブレヒト孔(Weitbrecht孔)と
呼ばれる関節包との連絡路を持っています。
この連絡路を通じて、滑液を関節包内へ送ったり、
滑液包内へ戻ってきたり行き来しているわけですが、
炎症によってこの連絡路が容易に閉塞してしまうのです。
閉塞してしまうと、関節包内から滑液包が出ることができないため、
関節包の内圧が上昇してしまうというわけ。
それによって、関節包の侵害受容器を刺激して痛みが起こるということ。
関節運動時の角度による変化
肩関節の角度によって関節内圧が変化します。
内圧が上昇すると関節包の侵害受容器へストレスがかかり、痛みを感じやすくなります。 つまり、内圧が上昇するポイントを押さえておく必要があるわけです。
関節角度による内圧の変化は以下のとおり。
・屈曲0~30°で急上昇 ・屈曲90~120°で再度急上昇 ・屈曲180°で内圧は最大 ・外旋最大域、内旋最大域でそれぞれ内圧が最大 ・外旋 VS 内旋では外旋の方が内旋の倍近くの内圧となる ・自動運動 VS 他動運動では自動運動の方が内圧が高く、急上昇する ・内圧が最小になる肢位は屈曲30°、外転40°、内旋25°
屈曲と外旋最大域で関節内圧が最も高くなると言われています。
さらに、0~30°、90~120°、最終域の範囲を動かす際は慎重に動かす必要があることを理解しましょう。
この時、何も考えずに急激に動かしたり、その角度で強い筋出力を要求するような運動療法を繰り返すことは痛みを誘発する可能性があることを知っておくべきです。
関節内圧に対するアプローチ
・ヴァイトブレヒト孔の閉塞に対して ・関節内圧の上昇を抑える動かし方
この2点について解説します。
まず、ヴァイトブレヒト孔ですが、上関節上腕靭帯と中関節上腕靭帯の間にあり、烏口突起の外側端の下あたりに位置しています。
この上に、肩甲下滑液包-肩甲下筋-小胸筋-大胸筋というふうに
深層から順に重なっています。
閉塞を開通させるためには、関節包と滑液包との対流を促してあげる必要があります。
具体的には、以下の方法でアプローチします。
1.背臥位にする 2.肩関節をレストポジションへ(屈曲30°、外転40°、内旋25°へポジショニング) 3.片手で空手チョップの形を作り、小指側を烏口突起から腋窩に当てる 4.もう片手で上腕骨頭を包むように把持する 5.骨頭を臼蓋へ向けて押圧 6.緩やかに繰り返す
ヴァイトブレヒト孔がある部分に軽く手を当てて、そこへ向けて押圧を繰り返すことで、その部分に選択的に刺激が入ります。
それによって、関節包-ヴァイトブレヒト孔-肩甲下滑液包の対流を促すことができます。
周囲の筋群の緊張も確認しながら試してみてください。
関節内圧を上昇させずに動かす方法ですが、骨頭被覆率を変えないように動かします。
上腕骨には頸部があるため、臼蓋に対して頸部軸で動かします。
具体的には、以下の通り。
屈曲時:上腕骨屈曲+外転+外旋 伸展時:上腕骨伸展+外転+内旋
このように動かすことで、臼蓋から骨頭を逸脱させないように動かすことができます。 つまり、骨頭の被覆率も変化しない。
被覆率が一定ということは、関節内圧の上昇も抑制することができ、痛みを出しにくいということになります。
もちろん、この動き方だけでは生活場面で活かすことはできませんが、少なくとも急性期の痛みが出やすい時期は、こういった動かし方を意識するべきです。
まとめ
・陰圧は骨頭が臼蓋から引き離される、陽圧は陰圧の反対 ・関節包の周囲には4つの滑液包が存在する ・肩甲下滑液包と関節包の間には、ヴァイトブレヒト孔が存在する ・炎症によってヴァイトブレヒト孔が閉塞すると、関節内圧が上昇する ・関節角度によって内圧が急上昇するポイントがある ・頸部軸に合わせた動かし方で被覆率を一定に保つことができる
関節内圧は目に見えない部分で意識しにくいかもしれませんが、知らず知らずのうちにセラピストの手によって痛みを起こす原因にもなりかねません。
ポイントをしっかり押さえておいて、無用な痛みは起こさないようにしましょう。
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